ロンドンでの作品作りにあたって、色々と思ったこと、感じたことがあったので、自分のメモ書きのような意味合いも込めて、書きとどめておきたいと思います。
●旅のテーマ
結婚10周年目を記念して、自分が幼少期に6年近く過ごしたロンドン、及び生涯の伴侶であるChristyと出会ったロンドンに23年ぶりに戻り、二人の思い出を辿る旅であると同時に、二人の新しい思い出を築く旅でした。
●作品のテーマ
今回のメインテーマは2つに絞りました。(1)場所の雰囲気(都市や自然の風景)と、(2)そこでの生活の写真です。23年前に住んでいたロンドンと今のロンドン、幼少期と大人の自分の目に映るロンドンはきっと同じ面もあるだろうし、むしろ異なる面が多いに違いない、そんな違いや進化した街、息づいている街を自分の目で見たい、感じたい、そしてそれを表現したいと思いました。
●何故モノクロなのか
ブログ内外のたくさんの方々から頂いたご感想の一つに、何故モノクロ写真なのか、というのがありました。理由はいろいろとあるのですが、最大の理由は、ロンドンの歴史ある街並の重厚感を表現したかったから、というものです。中世に築かれた建築物の重厚さやロンドンの歴史の重みを表現するのに僕としてはモノクロが適していると感じたので、NikonD80でカラー撮影をして、それを画像処理ソフトを利用してモノクロに現像しました。
●プロの写真を見て感じたこと
今回の旅を前にし、プロの写真家の方々のロンドンの写真を数多く研究しました。プロの方々はロンドンについて、何を思い、何を感じ、何をどう表現しているのだろうか、こういう視点から彼らの作品群を見るように心がけました。ロンドン在住のプロの方々が撮った写真は唸るものばかりで、作品一点一点に轢き付けられる「何か」を感じました。ただ、この「何か」が何であるか、言葉で正確に言えない自分がいることに気がつきました。プロの方々の写真と自分の写真が違うのは明らかに分かる。技術的にも、精神的にも明らかに違う。ただ、何が違うのか、これを言葉で表現できない自分がいたのです。
あえて言葉で表現できたことの一つと言えば、技術的な面ですが、プロの方々の写真を見ていると、自分の視線が一気にひきつけられたり、写真の中であちこちに動くことでした。これがどうしてそういう作用を起こしているのか、それが全く分かりませんでした。そのプロの方々の写真にある幾つかの「何か」を教えてくれたのがロバート・カプート氏の本(「National Geographic社 写真の撮り方 旅行編」)でした。
●今回気づいたこと
カプート氏は、こう言いました。
写真は3次元の世界を2次元で表現したものだ。失われた3番目の次元を補うために、奥行きを出せるイメージを作り出したいものだ。リーディングライン(視線の誘導)、前景要素、被写界震度を駆使して、見る人の視線を写真にひきつけるのだ。(同著 57項抜粋)
僕は恥ずかしながら、リーディングラインという言葉を知りませんでした。ただ、これを読んだ時に、今までSFベイエリア写真倶楽部の諸先輩方から教わったことや様々な写真の本で読んできたけど漠然としか理解できていなかったことが、一気につながったような気がしました。
それからプロの写真家のロンドンの作品を見ると、ほとんどの写真がこのリーディングラインによって構成されていることに気づきました。この作用によって、僕の視線が作品の中で動き回る理由が初めて言葉で理解できたのです。それからというもの、プロの写真を見て、それぞれの作品がどのようなリーディングラインで構成されているのかを研究し、撮影者が何を伝えたかったのか、その伝えたかったことが、そのリーディングラインによって補助されているのかどうか、それを考えるように勤めました。
そして僕がシャッターを押す時は、常にこのリーディングラインに気を配り、僕が伝えたいメッセージが、本当にこのリーディングラインで伝わるのかどうかを考えながら撮影に臨みました。
●もう一つ気づいたこと
もう一つ気づいたことがありました。自分が今まで撮影してきた写真と、プロの方々の写真。明らかに違うのです。何が違うのか。とても基本的なことなのですが、それは僕の写真からは伝わってくる「何か」がなかったのです。それは、僕がシャッターを押す時に、「伝えたい何か」が自分ではっきりしていないからだ、とカプート氏が教えてくれました。
良い写真はその時の興奮をあらためて感じさせ、記憶を呼び起こし、自分が感じた気持ちをそのまま人に伝えられる。そんな写真を撮るには、カメラを構えながら、ただ被写体を見ているだけではなく、心で考え、感じることが必要だ。(同署 8項)
...目的地に着いたら、心を解放して第一印象を記憶にとどめ、...第一印象を忘れないようにし、写真を通してそれを伝える方法を想像してみよう。たとえば、その場所を友人に説明するときに使う「形容詞」を考えてみてはどうだろう。(同著 18~24項)
カプート氏の言うとおり、今回の旅では第一印象を大事にし、シャッターを切る前にまずは「伝えたい何か=思い」を明確にし、あとはそれを表現するのに最適な手段(構図、被写界震度、リーディングライン等)を探し出すように努力しました。
●更に気づいたこと
そしてプロの写真と僕の写真の違いに関して、また一つ気づいたことがありました。それは、プロの写真には「ストーリー」がある、ということです。プロの写真を見て、うーんと唸ってしまう。それは、そこにストーリーがあるからなんだ、と思いました。
最近SFベイエリア写真倶楽部の方のThailandの旅の写真を見せて頂く機会がありました。僕が特にひきつけられたのは、水上マーケットに日が斜めに差して、ボートの上の行商のおばさんが前方を見つめている写真でした。僕はこの作品から行商のおばさんの声が聞こえてきました。「あ〜、今日はもう日が沈むし、客はこんね〜、そろそろ家路に着こうかの〜。。。」この日は恐らく朝から忙しくしていたのでしょう、ところがもう日は沈む時間だし、客もあんまりいない。あとは家族の待つ家に帰るのみ。こんなストーリーが一枚の作品から聞こえてきました。
僕はこういうストーリーを写真に取り込むにはどうしたらいいか考えて撮影に臨みました。でも写真を撮っても撮ってもなかなかストーリーが聞こえてこない。そこでストーリーの要素とは何か、と考えてみました。そこでカプート氏の3次元と2次元の話を思い出しました。その時、あっと思ったのが、4次元の世界でした。
写真とは、3次元の世界を2次元で表現するもの。だからこそ、失われた3次元のZ軸を加えて写真に奥行き感を持たせる。これはカプート氏が言っていました。僕はここに更に第4の軸である「時間」軸を入れたらどうかと考え、プロの写真を再度見てみました。すると、プロの写真家の作品には、第4の軸である「時間」軸が入っていると思えるのです。そして、時間軸からストーリーが生まれている、と感じたのです。
このような思いから、ロンドンの旅の後半は「時間」軸も考えながら撮影に取り組むようにしました。
●苦労した点
「生活の写真」がとても苦労しました。旅先で見知らぬ人にカメラを向けるのになかなか勇気がいりました。あっ、この瞬間を撮りたい!と思っても、なかなかカメラを向けられずにシャッターチャンスを逃してしまうことばかりでした。そんな時に励まされたのがカプート氏の言葉でした。
街角の写真撮影は、誰にとっても難しい撮影の一つだといえる。例えば知らない人の写真を撮るのは気恥ずかしいと思う人は多いが、これは自然なことである。人はみな、他人の感情や習慣を認め、そういったものに対して敏感であるべきであるからだ。人は写真より大切であり、私たちはみな旅先ではその土地の客のようなものであるから、それに応じた行動をすべきだと心に留めておいて欲しい。(同著 126項 抜粋)
友好的で開放的な態度で近づけば、大半の人は写真に撮られることを気にしないものだ。しかし、友好的な態度でないと断られてしまうだろう。よい人物写真を撮れるか否かは、完全に自分次第だということを忘れてはならない。(同著 127項 抜粋)
カプート氏の言葉に励まされて撮影したのが、クラリッジズホテル前のポーターの方と、バッキンガム宮殿正門前の警官の方でした。特に警官の方の作品は、バッキンガム宮殿前で2時間場所取りをして待機している最中に、何度か談笑して関係を構築してから彼女の最も自然な表情を撮影させて頂きました。
●終わりに
撮る写真にはストーリーがあったり、写真を通じて伝えたい何かがあるんだと思います。ただ、撮影者が感じたその被写体のストーリーや伝えたい何かが、写真を見て下さる方々に伝わるかどうかは撮影者の思いの強さ、表現方法や手腕によりけりで、そしてその結果によって写真の完成度が決まってくるのではと考えます。今回のロンドンの旅では、僕はこの第4の軸である「時間」軸を特に考えて写真に取り込むことによって、自分がその被写体を見て感じたストーリーや感じたことを、写真を見て下さる方々に伝えたいと思い、シャッターを切ってきました。
今回の作品の中で時間軸を取り込めた写真を一枚撮ることができました。それがセントポール大聖堂に入っていく老人の一枚です。その一枚に込められたストーリーは見て下さる方によっていく通りもあるかもしれません。見て下さる方々がこの作品を見て、何かストーリーを感じてくださるようなことがあれば幸いです。
また、今後より精進して、「撮影者の思いが伝わる写真」をより多く生み出せるように努力したいと思います。
長文になってしまいましたがお付き合い頂きありがとうございました。
Cork